マイホームの夢を実現するには、建築基準法の理解が欠かせません。この法律は安全で快適な住環境を確保するための最低限のルールを定めたもので、知らずに計画を進めると思わぬ障害に直面することもあります。
本記事では用途地域や防火対策、接道条件など初心者が特に押さえておくべきポイントと、2022年の法改正内容をわかりやすく解説します。失敗しない家づくりの第一歩として、ぜひ参考にしてください。
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建築基準法とは?
建築基準法は、私たち国民の安全と健康を守るために制定された、建物に関する最も基本的なルールブックです。マイホームを建てる際はもちろん、増改築やリフォームをする場合にも必ず従わなければならない決まりを定めています。
この法律は大きく「単体規定」と「集団規定」に分けられます。単体規定は建物そのものの安全性に関するルールで、耐震性や火災対策などが含まれます。一方、集団規定は周辺環境との調和を図るためのルールで、建物の高さ制限や道路との関係などを定めています。
1950年に制定されて以来、阪神・淡路大震災などの教訓を踏まえた耐震基準の強化や、シックハウス対策、省エネ性能向上など、時代の要請に応じて何度も改正されてきました。土地があるからといって自由に建物を建てられるわけではないことを理解しておきましょう。
建築基準法に基づく5つの制限
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建築基準法では、住宅に関するさまざまなルールが定められています。
- 用途地域による制限
- 防火地域・準防火地域に関する制限
- 接道義務に関する制限
- 容積率・建蔽率(けんぺいりつ)・高さの制限
- 住宅内部に関する制限
これらのルールについて解説します。
用途途地域による制限
用途地域とは、都市計画の一環として定められた土地の使い方に関する区分けのことです。
住宅を建てる場合、特に注意すべきは「住居系用途地域」です。第一種低層住居専用地域では静かな環境が保たれますが、建物は主に2階建てまでに制限され、店舗併用は厳しく制限されます。第二種低層住居専用地域になると少し緩和され、小規模な店舗の併設が認められるようになります。
中高層住居専用地域では、マンションなどの建設が可能となり、高さ制限も緩和されます。第一種・第二種住居地域ではさらに多様な建物との混在が許され、準住居地域になると自動車関連施設なども近隣に立地します。
防火地域・準防火地域に関する制限
防火地域・準防火地域とは、火災の危険性が高い市街地において、火災の発生や延焼を防ぐために特別な建築ルールが適用される区域です。
これらの地域で住宅を建てる場合、建物の大きさや階数に応じて様々な制限があります。防火地域では、3階建て以上または床面積が100㎡を超える住宅は、火に強い材料で作られた「耐火建築物」である必要があります。それより小さな住宅でも、一定の防火性能が求められます。
準防火地域はやや基準が緩やかですが、4階建て以上の住宅は耐火建築物としなければなりません。3階建ての木造住宅も建てられますが、外壁や窓などに特別な防火対策が必要です。
接道義務に関する制限
接道義務とは、建物を建てる敷地が幅4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければならないという建築基準法の重要なルールです。
住宅建設を計画する際には、この接道条件を満たしていない土地では原則として建物を建てることができません。特に注意が必要なのは、見た目は道路のように見えても法律上の「道路」と認められていない私道や通路の場合です。このような土地は「再建築不可物件」となり、将来的に建て替えもできなくなるため、土地購入時には必ず確認すべきポイントです。
容積率・建蔽率(けんぺいりつ)・高さの制限
建築基準法では、容積率や建蔽率、高さについても制限が定められています。
用語 | 内容 |
容積率 | 敷地面積に対する建物の延床面積の割合 |
建蔽率 | 敷地面積に対する建築面積(建物が地面を覆う部分の面積)の割合 |
高さの制限 | 絶対高さ制限や斜線制限(道路斜線制限、隣地斜線制限、北側斜線制限)、日影規制など |
これらの規制は地域の住環境を守るために設けられており、土地選びの段階で確認することが大切です。
住宅内部に関する制限
建築基準法では、住宅内部の空間についてもルールが定められています。まず、リビングや寝室などの居室の天井高さは最低でも2.1メートル以上必要です。これは生活空間として必要な最低限の広がりを確保するためです。
また、部屋には十分な採光と換気のための窓が必須とされています。窓の大きさも規定されており、通常は床面積の1/7以上の開口部が必要です。
さらに、避難経路となる廊下や階段にも明確な寸法規定があります。廊下は両側に部屋がある場合1.6メートル以上、片側のみなら1.2メートル以上の幅が必要です。階段についても幅75センチ以上が基本で、踏み面の奥行きや段の高さまで細かく決められています。
令和4年(2022年)の建築基準法改正とは?
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2022年に建築基準法が改正されました。住宅建築に関する主な変更は以下の2点です。
- 省エネ基準適合の義務化
- 4号特例の縮小
変更内容を詳しく見てみましょう。
省エネ基準適合の義務化
2022年6月に公布された建築物省エネ法の改正により、2025年4月から日本の住宅建築に大きな変化が訪れました。これまで大型商業施設などの特定の建物だけに求められていた省エネルギー基準への適合が、一般住宅を含むすべての新築建物に義務付けられるようになります。
この新しい規制では、住宅の断熱性能と設備機器のエネルギー効率の両面から評価が行われます。具体的には「断熱等級4」以上の性能が求められ、壁や屋根の断熱材、窓の性能、冷暖房設備の効率などが基準を満たしているかどうかが建築確認の過程で審査されます。
基準に適合しない住宅は建築確認が下りず、工事を始めることができなくなるため、住宅計画の初期段階から対応が必要です。この取り組みは2050年のカーボンニュートラル達成に向けた重要施策として位置づけられており、2030年にはさらに基準が引き上げられる予定です。
光熱費削減や快適な室内環境といったメリットがある一方、建設コストの上昇は避けられない見通しです。
4号特例の縮小
2025年4月から施行される建築基準法の改正により、木造住宅の建築手続きが大きく変わります。これまで「4号特例」と呼ばれる制度により、一定の小規模木造住宅では建築確認の際に構造に関する詳細な審査が省略できましたが、この特例の適用範囲が大幅に縮小されることになりました。
具体的には、都市計画区域外の地域にある2階建て木造住宅も建築確認申請が必要となり、構造計算や省エネ性能に関する書類の提出が義務付けられます。これまで特例の対象だった木造2階建て住宅は、地域を問わずすべて通常の確認申請ルートでの審査が必要になるのです。
この変更により、木造住宅の安全性と品質の向上が期待される一方で、設計事務所や工務店の業務負担は増加し、住宅建設のコストアップや工期の長期化につながる可能性があります。平屋建ての小規模住宅のみ一部審査省略の対象として残りますが、一般的な2階建て住宅では例外なく完全な審査プロセスが求められるようになります。
建築基準法に違反していると「建築申請」に通らない
住宅を建てる際には、工事を始める前に「建築確認申請」という手続きを行い、行政機関から建築計画が法律に適合していることの確認を受ける必要があります。この申請が 建築基準法に違反していると承認されず、正式に工事を始めることができません。
たとえば、敷地が道路に2メートル以上接していない場合や、容積率や建ぺい率の上限を超えている設計、耐震性能が基準を満たしていない場合などは、申請が却下されるケースが多いです。また、2025年4月からは省エネ基準を満たさない計画も申請が通らなくなります。
もし申請が通らないまま建築を強行すると、違法建築となり、行政から工事中止命令や取り壊し命令が出される可能性があります。さらに、罰金刑や懲役刑などの刑事罰の対象となることもあります。
建築確認申請は専門的な知識が必要なため、建築士や専門家と連携して慎重に進めることが大切です。建築基準法は私たちの安全を守るための最低限のルールです。
まとめ
今回は、住宅の建築基準について解説しました。建築基準法は私たちの安全な暮らしを守るための重要な法律です。住宅建設では土地の用途地域による制限、火災対策のための防火地域規制、道路への接道義務、建物の大きさを決める容積率・建ぺい率の制限、そして室内空間の最低基準などを守る必要があります。
2025年からは省エネ基準適合が全ての新築住宅で義務化され、木造住宅の建築手続きも厳格化されます。これらの基準に違反すると建築確認が下りず、工事を始められないため、土地選びの段階から専門家と相談しながら計画を進めることが大切です。